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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1592号 判決 1963年7月30日

控訴人 株式会社原田商店破産管財人 寺崎支二

被控訴人 帝国カーボン紙株式会社

右代表者代表取締役 北原元茂

右訴訟代理人弁護士 山本良一

尾埜善司

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和三四年六月一一日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

株式会社原田商店が昭和二八年一二月二五日大防地方裁判所において破産の宣告をうけ控訴人が即日破産管財人に選任されたこと、右会社は昭和二年三月設立せられ支房具類の卸商を業としていたが、その代表取締役であつた原田賢蔵は国産カーボン紙の製造販売を計画し、被控訴人の前代表取締役であつた武田哲三郎とともに昭和九年被控訴人会社を創立しこの会社においてカーボン紙を製造し一手に販売してきたこと、破産会社がもと控訴人主張の商標権を有したが、昭和二六年一〇月一九日特許庁受付第九二九七号をもつて右商標権につき昭和二六年九月一日譲渡を原因として被控訴人へ移転登録がなされたこと、控訴人が被控訴人を相手方とし昭和二九年六月一二日大阪地方裁判所へ商標権登録抹消の訴を提起したが、本件商標権の登録は昭和二八年一〇月三日期間満了を理由に昭和三三年三月七日抹消せられたことは当事者間に争がない。

成立に争のない乙第一、二号証≪中略≫を総合すると、昭和二六年九月頃破産会社が支払停止の状態に陥つた際、被控訴人は破産会社から約三〇〇万円のコゲ付債権の代物弁済として本件商標権の譲渡をうけたことを認めることができる。控訴人は右譲渡は破産会社不知の間になされたもので無効であり、被控訴人も破産会社に対しその返還を約したと主張し、甲第三、五号証の各二、当、原審証人原田賢蔵の証言中これにそう部分があるが、これは前顕証拠に照らし採用できず、他に右事実を認める証拠はない。旧商標法第六条に「商標ノ登録出願ヨリ生ジタル権利ハ其ノ営業ト共ニスル場合ニ限リ之ヲ移転スルコトヲ得」、第一二条第一項に「商標権ハ其ノ営業ト共ニスル場合ニ限リ之ヲ移転スルコトヲ得」、第一三条に「商標権ハ商標権者ガ其ノ営業ヲ廃止シタル場合ニ於テ、消滅ス」と規定されてあるが、商標の登録の出願に際しては現に営業の存在することを要件としていないところからみると、旧商標法の下においては商標権の譲渡は現に営業の存在する場合は営業の譲渡を伴わぬ限りその効力を生じないが、その営業が将来にかかるものとして登録をうけた商標権の譲渡においては、これに随伴すべき営業とは商標権者の指定商品についての営業に関する内心の意思というべきであり、かかる場合の営業の譲渡は右意思の承継を以て足ると解すべきである。しかし本件商標権譲渡当時はすでに破産会社において本件商標を使用しカーボン紙の販売をしていたことは被控訴人の争わないところであるから、本件商標権の譲渡については営業の譲渡を有効条件とすべきはもちろんであり、この場合の「営業」は商法上のそれと意味を異にすると解すべき理由もないところ、破産会社において営業の譲渡に関する商法第三四三条に定める決議のなかつたことは当事者間に争がない。

被控訴人は本件商標権の譲渡と共に破産会社から同会社の内地における得意先を継承し、直接本件商標を付したカーボン紙を販売してきたと主張するけれども、得意先の継承のみで果して営業譲渡と認め得るか否か疑問であるのみならず、これが営業譲渡となるとしても、これについて破産会社の商法第三四三条所定の決議のなかつたことは前記のとおりであるから、右営業譲渡は無効である。

すると、本件商標権の譲渡は旧商標法第六条、第一二条第一項に違反し無効であるから、被控訴人は控訴人に対しこれを返還すべき義務があるが、その登録が被控訴人の名義になつていた間に更新登録の出願なきため抹消せられたことは当事者間に争なく、右は被控訴人の責に帰すべき事由により本件商標権を滅失せしめこれを控訴人に返還することができなくなつたというべきであるから、被控訴人は控訴人に対し本件商標権の価額相当の損害を、賠償すべき義務がある。

被控訴人は右損害賠償債権は不法行為を原因とするものであり、控訴人がその損害および加害者を知りたる昭和二九年六月一二日より三年の時効により消滅したと主張するが、本件は排他的独占性を有する商標権の侵奪に対する回復請求権にもとずく損害賠償請求権(民法第一九一条)によるものであるから、これについては民法第七二四条の消滅時効の適用をうけるものではない。

そして本件商標権消滅当時の価額は、被控訴人が破産会社に対する債権約三〇〇万円の代物弁済として本件商標権の譲渡をうけたとの前記認定の事実に被控訴人代表者本人の当審尋問の結果を参照すると少くとも金一〇〇万円を下らないものと認められるから、控訴人が被控訴人に対し本件商標権の返還不能による損害賠償として金一〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日なること記録上明なる昭和三四年六月一一日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は正当として認容すべく、これを排斥した原判決は失当であるから取消を免れず、本件控訴は理由がある。

よつて民事訴訟法第三八四条第九六条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩口守夫 判事 藤原啓一郎 岡部重信)

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